雨がしとしと降る、今日のような日は心が落ち着き、好奇心がアップする気がします!
映画鑑賞の絶好の機会なので、フランス映画「オーケストラ!」を見ました。
映画の予習用におすすめの記事です↓
<あらすじ>
30年前、ロシア・モスクワにあるボリショイ劇場のマエストロだった、アンドレイは、スターリン下のロシア(1922~1953)で迫害を受け、オーケストラの仲間とともに追い出され、今では、同劇場の清掃員をしています。
スターリン支配下のロシアについての詳細を後半部で書いています↓
マエストロ時代の友人、レアというヴァイオリニストの女性はユダヤ人であったことから、シベリア送りにされ、シベリアで亡くなりました。アンドレイは彼女を含むユダヤ人団員を守ろうとしましたが、報われずレアを失ってしまいました。
30年が経過し、ボリショイ劇場の実力の平凡さを目の当たりにしていた彼は「ある策略」を思いつきます。
この「ある策略」とはボリショイ劇場※の劇団員になりすまし、かつての仲間とパリのシャトレ座で演奏すること。
※ボリショイ劇場:ロシア・モスクワにある劇場。ボリショイは「大きい」という意味なので、ロシア国内には多数のボリショイ劇場が存在する。映画の中のボリショイ劇場はモスクワにあるものを指す。
実はアンドレイには演奏会で再起すること以外に大きな目的がありました。
それはフランスのヴァイオリニスト、アンヌ=マリーと共演すること。
マリーは、シベリア送りになった時に、友人の手を借りてフランスに亡命させたレアの娘です。
「親のまなざしを求めてきた」
母親レアを知らないアンヌ=マリーはコンサートに先立ち、アンドレイに語りました。
アンドレイとマリーの両親の関係を知らないマリーは、「コンサートでは一瞬でもいいから(自分のことを)見てほしい」と淡々と話し続けます。
しかし、アンドレイが、マリーの母であるレアの話をした時(彼女がマリーの母であることは隠している)、マリーは自尊心を傷つけられ、「私はレアの代わり?」と反応し、さらに「オーケストラは断る」と言い出します。
このことを聞きつけた、マリーの母レアを知る唯一の団員サーシャは、マリーを説得しようとした時に、うっかり「(マリーの親に)会えるかも」と言ってしまう。この言葉はマリーの心をざわつかせる。
そして、マリーは母替わりであった女性、ギレーヌから真実を明かされるとともに、コンサートに出るよう諭される。
そしてコンサート当日。
パリの娯楽を気ままに楽しむ団員達に向けて、「レアのために来い」というメールが送られ、なんとか全員集合。
リハーサルもしていないため、何ともいえない演奏が始まったその時、マリーの独奏が始まります。
マリーは美しい音色でオーケストラを一致団結させ、大喝采のフィナーレへと導きます。
その中、アンドレイはマリーに「親のまなざし」向けていました(そのように見えました)!
<感想>
ギレーヌ:全粒パンはパスして明日ハチミツを
マリー:確かに(チャイコフスキーを)弾くのは怖いけどボリショイとの協奏曲は私の夢よ
ギレーヌ:指揮者は無名。オケも低迷。リスクが伴うのよ。
マリーとマネージャーかつ育ての親であるギレーヌとの会話です。
1960年代頃のソ連は国内経済を第一次産業、特に穀類の生産に過度に依存していたことで知られ、これが、ソ連経済の崩壊を招いたとされています。また、ロシア産のハチミツの美味しさは随一みたいです!
ギレーヌのセリフの裏側にあるのは、フランスでも採れる小麦はわざわざロシアで採る必要はなく、ロシアでないと採れない(美味しい)ハチミツだけを食べればよい、言い換えると、お金や名声などを与えてくれるものに限定してリスクを負いなさいということではないでしょうか。
実際、ギレーヌの後のセリフで、演奏会の出演はリスクがあると言っています。政治的に資本主義のフランスと共産主義のロシアは敵対関係にあったはずです。レアとギレーヌはフランス人ですから、ロシアの劇団と共演すること自体がリスクだった可能性が考えられます。
ギレーヌは、ボリショイの楽団と共演することは、フランスの政敵であるロシアと演奏することによるリスクが伴うだけで、何も得られないソ連の全粒粉を選ぶことだと言っていたのではないでしょうか。
またアンドレイ自身も30年前、リスクを背負って、チャイコフスキーを演奏した、ということを忘れてはいけません。その結果、彼は指揮者の地位を奪われ、音楽界から姿を消し去ることになったのです。ちなみにアンドレが背負ったリスクは、スターリン時代(1922~1953)の内政によるもので、レアとギレーヌのリスクとは違うものです。
チャイコフスキーに対するロシア国内の批判については以下の記事で触れています↓↓
(チャイコフスキー生前に受けた批判について書いていますが、批判の内容は同じだと思います)
音楽の世界に限らず、大勢の人々を刑務所送りにしてきた冷戦時代の大国ソ連。
話が逸れますが、似たようなことはそこら中で起こっている思います。例えば、フランスと日本が抱える児童虐待問題。弱い立場に置かれた人を死へと追いやってしまう世の中は今も昔も変わっていないなと思います。
写真や映画は人の心を動かしますよね。児童虐待に関するヒット映画がたくさん出来れば、虐待しそうになった時に、ふと思い出して、その手が止まるんじゃないかと思います。
この映画はヒューマンドラマ的な要素とコメディー的要素がバランス良く含まれているため誰が見ても楽しめる一方で、ドラマなのかコメディーなのかどっちつかずな所があるのも事実で、ドラマ派コメディー派の好みがはっきりしている人が見ると、期待外れになってしまいます。